あしたの星を待っている
「そっか、気づいちゃったか」
黒沢さんは薄く笑って、素直に認めた。
それはまるで、いつか私に言い当てられるのを予測していたかのような感じで、少し長くなるけど聞いてくれる? と、近くにあったベンチを指さした。
「兄は真面目な人だったの。だけど、進学校で勉強についていけなくなり、憂さ晴らしに夜遊びをするようになった。その時、知り合ったのが葉山先輩。彼は地元グループのリーダー的存在だった」
中津くんが言ってたグループだね。
黒沢さんは時々声を詰まらせながら、静かに話をつづけた。
「顔を何度か合わせるうちに、グループへ入れて貰ったのはいいけど、所詮はパシリ。初めは飲み物買って来いとか、煙草を買って来いとかだったのが、エスカレートしてホームレスを殴れとか鞄をひったくれとか命令されるようになって」
「ひどい……」
「で、最終的に起きたのが夕里さんを襲う事件だったの」
「確か、私と一緒に車に轢かれたって」
「うん、そう。怪我をして入院してる間に兄は主犯になっていた。確かに夕里さんに危害を加えたのは兄だけど、最後まで抵抗したんだよ、そんなことはやりたくないって」
あの時、何人かいたからどれが黒沢さんのお兄さんだったか覚えてない。
でも言われてみれば確かに、誰か叫んでいた人がいたような気がする。断片的だけど、嫌だ、とか、もうやめてくれ、とか。
あれは私の心の声だと思っていたけど、違ったんだ。
「葉山先輩は兄が勝手に女の子を襲ったと証言して、あとは父親の力を使って事件から逃れ今も何食わぬ顔をしている。兄はその事件のせいで学校を退学になり、家から出れなくなったというのに!」
「黒沢さん……」
「私は寮に入っていたから知らなかったんだ。でも、たまたま実家に帰った時、兄の日記を読んで知ったの」