あしたの星を待っている
「先輩……」
「もっと早くこうすれば、よかったね」
またまた耳元で囁かれ、ぞわりとする。
背中全体に感じる先輩の体温が高く、熱く。それなのに氷の中に沈められていくような冷ややかな空気が体中に広がっていく。
逃げなきゃ、いや、逃げない、逃げたい。
頭の中は、そんな言葉がぐるぐる回る。
「花菜、キスしようか」
そろそろいいよね、って先輩は私を抱きしめる腕を緩めた。
それから先輩と向き合うように体を反転させられた、その視線の先。棚のところに置いてあるノートパソコンが目についた。
あれは……。
「こういう時は目を閉じるんだよ。それとも、そんなに俺を見つめていたい?」
「あ、や、その」
「照れた顔も可愛い」
どうしよう、もうだめだ。
ゆっくり先輩の顔が近づいてくる。
ぎゅっと目を閉じたその時、何かが鳴った。
「ち、」
舌打ちと共に立ちあがった先輩は、部屋の入口のところにある受話器を取り上げた。
どうやら母屋から内線が入ったらしい。
彼は面倒くさそうに返事をした後、「ちょっと待ってて」と言い残し出て行った。
チャンスだ。