あしたの星を待っている


私、ちょっと、いや、だいぶ舐めてた。

黒沢さんに危ないよ、と言われながらも、どうにかなるって楽観していた。何だかんだいって、先輩だし、付き合ってる人だし、酷いことされるといっても、嫌がれば大丈夫だって。

そんな風に思っていた。

人って、本気で怒ると瞳の色が無くなるんだね。

シーツに縫い付けられた手首が、燃えるように痛い。


「お前も結局、他の女と一緒か」

「せん、(声が、声が出ない)」

「だったら、他の女と同じように扱ってやるよ。いや、俺を怒らせた分、手荒になるかもしれないね。でも、悪いのはそっちだから」

「(でて、おねがい、声、でて)」

「めちゃくちゃにしてやる!」


声、出て。


「いや――! 誰か! 誰か助けて!!」

「こいつ、」


舌打ちをした先輩は、私の口を両手で押さえた。

容赦のない力で呼吸を止められ、頭の中が真っ白になる。

あの時も、こんな風に抑えられて、怖くて叫べなくて、ただひたすらもがくだけで、もっと必死に抵抗すれば、もっと叫べば何か変わっていたのかもしれない。

『助けを求める声をあげないと、誰も気づいてくれないよ」』


「る、い、くん……たす、けて」




ガッシャ―――ン―――。



その時、大きな音がして窓ガラスが割れた。

誰かが叫んでいる声と、足音、バタバタと動く音もする。驚いた先輩が私から離れていくのを見ながら、状況が飲み込めずに頭を抱える。

誰かが部屋に入ってきた。

それも1人じゃない、大勢いる気がする。誰、何?


「花菜、無事か!?」


それが瑠偉くんだと分かった瞬間、私は意識を手放した。







< 142 / 171 >

この作品をシェア

pagetop