あしたの星を待っている
私、ちょっと、いや、だいぶ舐めてた。
黒沢さんに危ないよ、と言われながらも、どうにかなるって楽観していた。何だかんだいって、先輩だし、付き合ってる人だし、酷いことされるといっても、嫌がれば大丈夫だって。
そんな風に思っていた。
人って、本気で怒ると瞳の色が無くなるんだね。
シーツに縫い付けられた手首が、燃えるように痛い。
「お前も結局、他の女と一緒か」
「せん、(声が、声が出ない)」
「だったら、他の女と同じように扱ってやるよ。いや、俺を怒らせた分、手荒になるかもしれないね。でも、悪いのはそっちだから」
「(でて、おねがい、声、でて)」
「めちゃくちゃにしてやる!」
声、出て。
「いや――! 誰か! 誰か助けて!!」
「こいつ、」
舌打ちをした先輩は、私の口を両手で押さえた。
容赦のない力で呼吸を止められ、頭の中が真っ白になる。
あの時も、こんな風に抑えられて、怖くて叫べなくて、ただひたすらもがくだけで、もっと必死に抵抗すれば、もっと叫べば何か変わっていたのかもしれない。
『助けを求める声をあげないと、誰も気づいてくれないよ」』
「る、い、くん……たす、けて」
ガッシャ―――ン―――。
その時、大きな音がして窓ガラスが割れた。
誰かが叫んでいる声と、足音、バタバタと動く音もする。驚いた先輩が私から離れていくのを見ながら、状況が飲み込めずに頭を抱える。
誰かが部屋に入ってきた。
それも1人じゃない、大勢いる気がする。誰、何?
「花菜、無事か!?」
それが瑠偉くんだと分かった瞬間、私は意識を手放した。