あしたの星を待っている
心臓がバクバクする。
後ろから不意打ちで触られるのが1番苦手で、まだ声が出なかっただけマシだった。
胸に手を当て深呼吸をしていると、先輩は私を安心させるように優しく微笑む。
「珍しいね、1人?」
「はい、七海はちょっと用事があって後から来ます」
「そっか。今日は実力テストだろ? 頑張ってね」
「緊張します……」
「花菜なら大丈夫。いつも通りやればいいから」
あれ、今――。
「ごめん、馴れ馴れしかった? でも、そう呼びたいなって。ダメかな」
独り言のように小さく、ダメかな、と呟く先輩は子犬みたいに目尻を下げた。
そういうの、ずるい。
午後の日差しが先輩の髪を薄茶色に照らし、より柔らかく見せる。
ゆっくり、そっと、ちゃんと確認しながら軽く優しく触れられた指先に、先ほどの恐怖はなく、何か別の感情が胸を占めた。
「だめ、じゃないです」
「あ、待って」
不意にスマホを出した先輩は、ボタンをいくつか押して私の方に向けた。
何をしているのだろうと聞くと、動画を撮っているのだと言う。
カメラを向けられること自体、さほど抵抗のない私でも恥ずかしくて目を逸らすと、ちゃんと記録したいから笑ってよ、と先輩は目を細めた。
「なんか、くすぐったいです」
「そういうところ」
「え?」
「前に、”私のどこがいいのか”って聞いただろ? 花菜のそういう純粋で可愛いところが好きだよ」
「……ありがとう、ございます」