あしたの星を待っている





「あ、いけない」

「どうしたの?」

「お隣に回覧板を回すの忘れていたわ。花菜、今から持って行ってくれない」


悪いわね、と夕食の片づけをしていたお母さんが洗剤の泡のついた手でテーブルの上にあった回覧板を指さした。

時計を見ると、夜の8時30分。

普通なら明日にしようかと悩む時間だけど、お隣さんを捕まえるには、むしろ都合のいい時間帯。

分かったと返事をし回覧板を手にすると、「ついでにこれも持って行って」とお母さんお手製のクッキーを持たされた。

毎度のことながら、迷惑じゃないかな。

なんて、言える勇気はないけど。



「こんばんは、夕里です」

『はぁい、ちょっと待ってね』


インターフォンを押して少しすると、玄関のドアを開ける音がして髪の長い女性が顔を覗かせた。門のところにいる私を見つけ、「あら花菜ちゃん」と笑う。

未だスーツ姿なのは、仕事から帰って来たばかりなのかな。

親しみのこもった笑顔で接してくれるこの人は、瑠偉くんのお母さんだ。


「遅くにすみません。回覧板です。あと、これお母さんから」

「まぁ、ありがとう。英子(えいこ)さんのクッキー美味しいのよね」


どれどれ、と包みを開けて1つ摘まみ、うん! と目尻を下げる。

飾り気のない綺麗な人。




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