あしたの星を待っている
それは、知っている。
瑠偉くんは一見強そうに見えて実は繊細で寂しがり屋で泣き虫だ。
って言ったらいくつの時の話だよって怒られそうだけど、仕事で忙しいお母さんの帰りをいつも1人、じっと耐えながら待っていた。
そんな彼のことが心配で、よく傍にいてあげたっけ。
思い出すように空を見上げ、ふっと息を吐いた。
都会の空は黒いベールをいくつも重ねたように暗く、星の1つも見えない。
「そういや、花菜ちゃん足はもう大丈夫なの?」
「え、足?」
「ほら、交通事故の」
「あぁ、もう2年も前だし大丈夫ですよ。今はバスケもできるし」
「そう! リハビリ頑張っていたものね。良かったね」
「はい」
「あ、噂をすれば瑠偉だ。おかえり~」
え? と後ろを見ると、またまたむすっとした顔。
スクールバックを肩に下げ、制服姿の瑠偉くんは黙ったまま私の横を通過する。昔は同じくらいの背丈だったのに、今はずっと高い。
いつの間にか彼のお母さんの背も軽々越したその身を、引きずるようにして家の中に入って行った。
「あの子、バイトしてるのよ」
「バイト?」
「急にね、自分の生活費は自分で稼ぐとか言い出して。私に気を遣ってるのよ」
そっか、瑠偉くんのところはお父さんがいない。
正確にいうとずっと昔に行方不明になったまま、まだ見つかっていない。そんなお父さんの代わりに瑠偉くんのお母さんは朝から晩まで働きづめで頑張っている。
そんなお母さんを助けようとしているんだね。
優しい瑠偉くん。昔から彼は優しかった。
――足はもう大丈夫なの?
思い出した。
瑠偉くんと話さなくなったのは、私は交通事故に遭ってからだ。