あしたの星を待っている
01.初彼と、トラウマ
夏場の体育館は殺人レベルで蒸し暑い。
実際、年に5~6人は重度の熱中症に陥って病院に運ばれるのだから洒落にならないと、Tシャツの裾をパタパタ仰ぎながら給水用のクーラーボックスを開けた。
「花菜(はな)~、私にもちょうだい」
「おっけ、投げるよ」
「ナイス、パス!」
明るい声が体育館に響く。
私が投げたスクイズボトルを受け取った七海(ななみ)は肩にかけたタオルで汗を拭きながら、開けっ放しにしてあるドアから体育館の外に出た。私もそれに続く。
「あー、今日の練習いつもよりきつくない?」
「しょうがないよ、試合が近いんだし」
「そうだけどさぁ、テスト明けだってのにきついよ。そりゃ先輩たちは試合に出れるからいいけど、うちらなんかただの補欠だよ? 付き合わされる身にもなってほしいよ」
「ちょっと、七海、声が大きいよ!」
「大丈夫っしょ、あれの音で聞こえないって」
七海が指をさした渡り廊下では、吹奏楽部が熱心に練習をしている。
確かに彼らの出す大きな音に七海の声なんかかき消されるだろうけど、もし聞こえちゃっていたら……と、ドアの方に視線をやると中で汗を流している1人の男子生徒と目が合った。
七海が肘で私の横腹を突く。
「男バスの葉山(はやま)先輩、いつも花菜のこと見てるよね」
「そうかな」
「そうだって、もうね目がハートなの。熱々なの。あれは花菜に惚れてるね」
「ちょっと七海? 面白がらないでよ。第一、”あの”葉山先輩が私に惚れるわけないでしょ。勘違いだよ」