あしたの星を待っている
真っ暗な道、不意に背後から迫りくる何か。
地面の冷たさと足に焼けるような痛み、薄れゆく意識の中で聞いた誰かの大きな声。
事故の記憶というと、それくらいしかない。
気が付いた時には病院のベッドの上で、丸2日眠ったままだったと聞かされた。
『車に轢かれたのよ、でも良かった。それくらいの怪我で済んで』
そうお母さんは涙ながらに言っていたけど、どんな事故でどんな風に轢かれたのか教えてくれず、車の運転手が尋ねてくることもなかった。
車が悪かったのか、それとも私の不注意だったのかも知らない。
――――だけど実は、後で思い出したんだ。
強い衝撃がくる少し前、何かに腕を取られた感覚。
体ごと持っていかれるような強い力、熱くて……それから、覆いかぶさる黒い影。
あれは事故ではなく、事件だったってこと。
だけど、私の記憶がないことをいいことに、両親は交通事故だったと嘘をついた。
まるで汚れたものに蓋をするように。世間体のために。
ううん、本当は分かっている。
私が本当のことを知って傷つかないためにしてくれたってこと、だから私も知らないふりを続けている。傷ついていないふりをしている。
だけど、
『本当に事故だったのかな』
1度だけ瑠偉くんに聞いたことがある。
その時、彼は困ったように笑うだけだった。
それからだった、彼と話さなくなってしまったのは。
「――――花菜?」
「えっ」
「どうしたの、ぼんやりして」
目の前で、手をパンパンッと叩かれて我に返った。
顔をあげると、心配そうにこちらを覗き込んでいた葉山先輩が優しく微笑む。
そうだ、私、今、先輩と一緒に帰っているんだった。