あしたの星を待っている
唯一、私の胸の中にあるトラウマを知っている友人。
両親にさえ話すことを躊躇い誰にも相談できなくて苦しくなっていた時に、当時の私からは考えもできなかった明るさで笑い飛ばしてくれた。
別に無理して男子と接する必要ないんじゃない? って。
それから少しずつ自分の中の、無理をしていた部分が楽になって変な構えも無くなって、今では男子とも普通に話せる程度に回復した。
私がこんな風になれたのは、七海のおかげ。
その七海が「付き合ってみたら?」と言うなら、それは正しいのかもしれない。
(充実した高校生活、か)
彼氏を作ること=充実した生活になるかどうかは分からないけど、大人になってから振り返ってみて記憶に残るのは、勉強でもなく部活でもなく恋愛なのかもしれない。
私だって全く興味がないわけじゃないし……。
と、考え込んでいる時だった。
「あっ!」
突然、七海が大きな声を出し、何事かと顔をあげた瞬間、パリ―ンと音がして昇降口の窓ガラスが割れた。
あちらこちらから叫び声と悲鳴が聞こえる。
すぐさま血相を変えた野球部員が飛んできて、ボールが当たったんだと理解した。
「花菜、大丈夫!?」
「私は何とも。七海は?」
「うん、平気。矢吹(やぶき)くんのお陰だね! ありがとう」
えっ、と振り返って目が合った。
そういえば、ガラスが割れたとき、誰かに強く引っ張られたような気がする。もし、気が付かずにそのまま居たら、破片で怪我をしていたかも。
「矢吹くん、今帰り?」
放心している私の代わりに、七海が彼に話しかけた。
「うん」
「部活、何部だったっけ?」
「……入ってない。今日は先生に雑用頼まれて遅くなっただけ」
「そうなんだ! お疲れさ、ま……って行っちゃった。相変わらずクールだねぇ。昔からああなの?」
あっと言う間に遠くなった背中を指さしながら、七海は口をへの字にする。
私はそれに「どうだったかな」と曖昧に答え、バスケットシューズを靴箱に入れた。