あしたの星を待っている






「花菜ー? そろそろご飯よ。降りてらっしゃい」


自室のベッドで寝そべって本を読んでいるとお母さんの呼ぶ声が聞こえた。今日は機嫌がいいらしい。

はぁい、と返事をして階段を下りる途中、踊り場のところにある窓からお隣さん家の電気がついていないことに気が付いた。

まだ帰ってないんだ。


「今日はお料理教室でローストビーフを作ったの。チキンとグレープフルーツのサラダに、花菜の大好きな人参スープもあるわよ」

「お父さんは?」

「仕事で遅くなるそうよ」

「ふーん」


洗面所で手を洗いダイニングに入ると、胃袋を刺激する良い匂いがした。

薄い黄色のエプロンを付けたお母さんは鼻歌交じりに、仕上げのテーブルメイクをしている。


「美味しそうー」

「まだ食べちゃだめよ。写真撮ってから……何か足りないわね」

「そう? 十分だと思うけど」

「そっか、お花ね。お花があるとテーブルが映えるわ。花菜、庭にまだビオラが咲いてるから摘んできてちょうだい」

「……分かった」


うちのお母さんは完璧主義だ。

手入れの行き届いた綺麗でお洒落な家に、お店で食べるような料理、ハンドメイドの服や雑貨。
                    
お母さんがやっているSNSではそれらをさらに良く見えるよう写真に撮ってアップしており、読者の間では憧れの主婦として人気があるらしい。

そして完璧なお母さんの娘である私も当然、完璧でないとダメなんだ。


「あら、また交通事故のニュースね。花菜も気を付けなさいよ」

「うん」

「もうお母さんに心配かけないでね」

「分かってる」


息が詰まる。



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