幼なじみとの恋は波乱で。(仮)
「あの、引くかもしれないんですけど…っ」

「……」

「わ、私っ…、

その、あ、荒井(あらい)くんのことが、

す、す、……その…」


「荒井」とは、俺の名字のことだ。


ていうか、なんかめっちゃ緊張してるし。


「緊張しないで?別に、引かないし」


千田さんが俺に伝えたい何かを

伝えやすいように、俺はそんなことを言う。


「あ、はい…。………………。

私…、あ、荒井くんのことが…。

す、す……」


そこまで言って

千田さんは深呼吸をすると、


「私、荒井くんのことが、

す、好き、なん…ですっ……」

「え…」

「ご、ごめんなさい!迷惑、ですよね…」

「いや、ううん。ほんとに嬉しい」


俺が首を振ってそう言うと、

千田さんは少し頬を緩めた。


「付き合って…くれ、ます、か…?」

「………」


付き合っていいのかな。


付き合ったら、

桃果への想いは忘れられるかな。


もし……。

もし、忘れられるなら…。

俺は、千田さんと、

付き合い…た、い…?


この想いを、忘れたくない、

という気持ちがないといえば、

嘘になる。


今まで積み重ねてきた想いを、

全部なくすのなんて、勇気がいる。


俺に、そんな勇気----。


「め、迷惑でしたよね!やっぱり…」

「あ、いや、そういうわけじゃ…」

「ごめんなさい!

私1人で変なことしちゃってました!」


そう言った彼女の瞳は濡れている。


彼女は、

ふわりと笑みを浮かべた。


彼女の目から、涙がこぼれ落ちる。


………………………。


あーあ。


俺、何やってんだろ。


自分がどうなるかとかばっかり考えて、

人のことまるで考えてない。


……人、泣かせちゃったし。


「すいません!それじゃ…」

「待って!」


立ち去ろうとした千田さんの腕を、

俺は強く掴んだ。


千田さんは

大きく目を見開いている。


「付き合おう!」

「…え……?」

「だから、付き合おう!

今日から俺たちカレカノ!」

「え…。

ほ、ほんとに、いいんですか…?」

「ん!」


俺がそう言って力強く頷くと、

「やったー!」とでも言うように、

千田さんは明るく笑った。



……………………。


これで、忘れられるかな。


桃果への、恋心。


「んじゃあこれからは、

俺のこと “晴翔” って呼んで!」

「うん!

晴翔も、私のこと “優(ゆう)” って呼んで!」

「うん!……あ。

あのさ、騒ぎ立てられるのも嫌だし、

特別仲良い人にしか言わないでね。

………って思ったけど、嫌、だよね…」

「ううん、全然大丈夫!」

「ありがと。

んじゃあ、教室戻ろうか」

「うん!」

「……あ、俺行きたいとこあるから」

「わかった!」


そんな会話をして、

階段の前の廊下で別れた。
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