幼なじみとの恋は波乱で。(仮)
「奏っ…!」

「桃果…」

「はぁっ、はぁっ、ちょっと…」

「うん…」


屋上へ通じる階段に行き、

荒れていた息を整える。


「…噂のことでしょ?」

「えっ?」


話を切り出したのは、奏の方だった。


やっぱり、奏もこの噂を聞いていたのか…。


彼の顔は、美しく、儚い。


「う、うん…」

「夕夏、本当にしたのかな…」


彼の瞳から、涙がこぼれ落ちた。


その瞬間。


『向こうの気持ちがもう無いんじゃないか、

っていう恐怖心は、

ないことは、ない、かな?』


昨日奏が言っていた言葉を思い出した。


(奏…)


「わかんない…。何も聞いてないの?」

「うん…」

「そっか…」


奏は、本気で好きだったんだ。

柏田先輩のことが。


こんなに綺麗な涙を流すほどに、

柏田先輩を好きになっていたんだ。


それが、ショックでもあり、もどかしかった。


何もしてあげられない。


そんな自分の無力さに、腹が立った。


「奏を傷つけるなんて…許せない」


こんなの、ただの八つ当たりに過ぎない。


「え…?」

「私はっ、奏が大好きだから!

だから、許せないよ…」

「…うん、そっか。ありがとな」


そう言いながら、

奏は大きな手で私の頭を荒っぽく撫でた。


少し微笑んでいるその顔。


それを見ると、私の「大好き」は、

友情的なものとしか

思ってないんだな、と思う。


…まぁ、さっきのは、

そんな感じではあったけど。


「…あ、俺、宿題終わってないから」

「あ、じゃ」

「ん」


短い別れの挨拶をして、

奏は階段を降りていく。


私はそれを、なんとも言えない気持ちで

見つめていた。
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