花火の夜の甘い蜜
聞いたことのない優しい声に、手に持ったボールペンがあらぬ方向へ滑りそうになる。
ドクドクと不規則に脈打つ胸を、どうにか押さえつけて最後のチェックを終えた。
「ダブルチェックお願いします。」
「ん」
長くて綺麗な指が、私の差し出した書類を受け取る。
紙の束を渡すだけなのに、何故こんなに動悸がするんだ。
そして、課長はなぜいつもより色気がすごいんだ。
数字の羅列を手早くチェックし始めた課長を見つめていられなくて、私は花火の音が響く窓へ近づいた。
課長の席の後ろにある窓は、河川敷の方角を向いている。
少し開いたブラインドの隙間を覗いた。
「なんか、申し訳ないです」
キュッキュッ、と赤ペンで数字をチェックする音は止まらない。
「なにが?」
「花火、見に行けなくしてしまって」
もう、8時半を過ぎた。
さすがにそろそろ花火大会も終わる頃だ。
後ろでクスッと笑った気配がして、振り向く。
課長は背中を向けたまま、手を止めずに言った。
「別に。鈴本のせいじゃない。言っただろ?毎年音だけだって」
顔は見えないが、少し笑って答える課長が想像できる声だった。
「そうなんですか」
「ああ」
一緒に見る相手もいないしな、と小さな声で付け足された。
ドクドクと不規則に脈打つ胸を、どうにか押さえつけて最後のチェックを終えた。
「ダブルチェックお願いします。」
「ん」
長くて綺麗な指が、私の差し出した書類を受け取る。
紙の束を渡すだけなのに、何故こんなに動悸がするんだ。
そして、課長はなぜいつもより色気がすごいんだ。
数字の羅列を手早くチェックし始めた課長を見つめていられなくて、私は花火の音が響く窓へ近づいた。
課長の席の後ろにある窓は、河川敷の方角を向いている。
少し開いたブラインドの隙間を覗いた。
「なんか、申し訳ないです」
キュッキュッ、と赤ペンで数字をチェックする音は止まらない。
「なにが?」
「花火、見に行けなくしてしまって」
もう、8時半を過ぎた。
さすがにそろそろ花火大会も終わる頃だ。
後ろでクスッと笑った気配がして、振り向く。
課長は背中を向けたまま、手を止めずに言った。
「別に。鈴本のせいじゃない。言っただろ?毎年音だけだって」
顔は見えないが、少し笑って答える課長が想像できる声だった。
「そうなんですか」
「ああ」
一緒に見る相手もいないしな、と小さな声で付け足された。