愛は、つらぬく主義につき。
 連れて来られたのは、リストランテって言うよりはトラットリアって雰囲気のイタリアンだった。駅も近いせいか、週の中日だっていうのに店内は会社帰りのOL達で賑わってる。

「仁兄もこういうお店、来るんだ?」

 テーブルに案内されて、不思議そうに首を傾げたら。

「・・・お前、俺を何だと思ってる」
 
 本気半分で睨まれた。

 イメージ的には隠れ家的なバーとか小料理屋とかで、しっとりと呑んでそうだなって思っただけ。
 上着を脱いで、チャコールグレーのベストにブルーのネクタイって姿は、普通のサラリーマンに見えるけど、・・・・・・にしては他人を寄せ付けない空気感は漂ってる。

「仁兄がデートしてる姿がちょっと想像できないなって思って」

 冗談交じりに小さく笑った。
 眼鏡の奥から何か言いたそうな眼差しで返ったのを受け流し、グラスのお水に口を付ける。テーブルに戻すと氷が揺れて、光りを鈍く乱反射してた。

「・・・来週末から盆休みだろう? お前の予定は?」

 生ハムとモッツァレラチーズのサラダを前に訊ねられた。

「・・・・・・まだ考えてないけど」

 伏目がちに視線を外して。

 お母さんのお墓参りもある。実家に帰らないワケには行かない。
 おばあちゃんも哲っちゃんも、会えばあたしに対する態度は以前と変わらないし、お父さんが何も言わないのも相変わらずだ。
 おじいちゃんと瑤子ママだけは笑ってても辛そうに、あたしに気を遣ってるのが分かる。

 帰るのは必要最低限にしようって決めてた。紗江も里帰りするだろうし、一日くらいは会えるかも知れない。子供じゃないんだから独りだってどうにかなる。  

「ならどこか行くか? 行きたい処があれば連れてってやる」

「・・・・・・ん。考えとく」

 あたしは曖昧に笑んで、そうとだけ答えた。



 堅く干からびた心臓に、小さな亀裂が音も無く走ってくのを。
 自分のものじゃないみたいに。遠くに感じながら。

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