愛は、つらぬく主義につき。
9-2
「・・・子」

 仁兄が何か言った気がして隣りを振り返る。
 人が行き交う賑やかな雑踏。音楽も雑じって、耳の中を色んなモノが通り抜けてく。
 視線を傾げたら、不意に引っ張られて仁兄の胸元によろけた。どうやらお店から出て来た男性と、ぶつかりそうになってたらしい。

「ごめん、・・・ありがと」

「ぼんやりするな。怪我するぞ」

 黒のVネックに細身のパンツ、淡色の麻のジャケットってカジュアルな恰好の仁兄。眼鏡もいつもの銀縁じゃないし、髪型も自然な感じに遊ばせてる。
 何となく。目が合ったのを僅かに逸らした。

 スーツだと触れたら切れそうな雰囲気だけど、私服になると普通に周囲に溶け込んでるし。・・・慣れてないせいか取り扱い方に惑う。っていうか。
 どこに居ても居心地が変わんなかった遊佐と違うのは、当たり前なのに。

 お盆休みの二日目の今日は。仁兄と湾岸エリアに近い大型ショッピングモールに来てた。
 炎天下の中を色々歩きまわるよりは、空調の効いた屋内。考えるコトは一緒なのか、庶民向けよりワンランク上のセレクトショップが揃ってる割りに家族連れも多い。

 袖なしのチャイナドレス風ワンピースにレースのボレロ、ヒールが低めのクロスストラップのサンダルで仁兄に手を繋がれてる姿は、他人の目にはカップル以外のナニモノでもないんだろうって。微かな吐息を胸の内で。

 お母さんのお墓参りは昨日、家族で済ませた。
 菩提寺は実家から車で十五分ほどの近場で、お父さんもおばあちゃん達もやけに神妙に、墓前で手を合わせてた。揃って、あたしと仁兄の結婚を報告したんだろう。

 見計らったようにその後、仁兄から『出かけるか?』って誘いの電話があって。・・・断る理由も見つからなかった。
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