愛は、つらぬく主義につき。
「良かったわねぇマコトちゃん。海に沈められなくて」

 ユキちゃんがにっこり、しれっと怖いセリフを吐く。

 波乱の婚約披露からちょっと経って。あたしは、遊佐と榊と、亞莉栖に顔を出した。とにかくお礼が言いたかったのだ。

「チヨちゃんも。やれば出来る娘だって信じてたわ」

 いつものカウンター席に並んで座るあたしに、片目を瞑って悪戯気味に。

 見た目は、顔も恰好も、並みより上のフツーの男にしか見えないユキちゃん。年齢不詳でミステリアスだけど、そんなのはどうでもいい。
 ずっとこの先もあたし達の心強い味方いてくれるに違いないから、それだけで。 
 
「ユキちゃんが背中押してくれたからだよ。いっつも大事なコトに気付かせてくれたの、ユキちゃんだもん。ほんとにありがと!」

「どーいたしまして?」

 カウンターの向こうから涼し気な笑顔が返った。
 
 あたしにカルーアミルク、遊佐にはビール、運転手の榊はウーロン茶のグラスを置き、ユキちゃんが視線を傾げた。

「でもチヨちゃん、今月いっぱいで仕事辞めちゃうんでしょ? 本家に戻るの?」

 口当たりが良くて、もう半分ほどに減ったグラスを戻し、ちょっと勿体ぶって見せる。

「うーんとねぇ。仁兄が、引っ越すハズだったマンションをあたしにくれてねぇ? 遊佐と一緒に住めって」

「あら」

 さすがのユキちゃんも目を丸くしてる。 

「でも遊佐は本部に詰めるのに、哲っちゃん家のほうが楽でしょ? しばらくはあたし一人で住もうかなって。近くて行き来もカンタンだし」

「まあ、二人だけの愛の巣も必要だものねぇ」

 意味深な笑みのユキちゃん。・・・ハイ図星です。

 築浅の中古マンションなんだけど、仁兄は室内を完全なバリアフリーにリフォームしてくれてるらしい。月末の引っ越しには間に合わせるって、連絡をくれてた。
 
「じゃあ、こっちに引っ越してきたら新しく仕事探しってワケね?」

「そっちもねぇ」

 あはは、とあたしはちょっと笑いが乾き気味。 

「仁兄のコンサルティング会社の事務に再就職が決まったっていうか、すでに決められてたってゆーか・・・」

 これにはおじいちゃん達も大賛成で。断る理由も見つからなかったのだ。もちろん遊佐も承知してる。

 妹愛を暴走させてる仁兄が、毎日会社に顔を出しそうだなぁ・・・・・・。
 ふと遠い目をして、あたしは胸の中で呟いた。
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