愛は、つらぬく主義につき。
「おじいちゃん!」

「おお宮子!待っとった、待っとった!」

紫色の紋付羽織りに白袴で、パッと見は十分にやくざの大親分さん。薄くなった頭は潔く剃っちゃって、今は好い感じのテカリ具合だし、顔付きは眼光の鋭い寅さんみたいだし。

大柄じゃないけど背筋はピンと張ってて、足腰も全然衰え知らず。『まだまだ正成には任せられん』が口癖のうちは、なんの心配も要らなさそう。

「七十歳の誕生日おめでとうございます。これからも元気で、ずっとあたしのおじいちゃんでいてね」

遊佐と一緒に選んだプレゼントを手渡しながら、少し照れた笑顔で言えば。屏風の前で黒くていかついオジサン達に囲まれてる中、孫娘の手を握り目頭を潤ませる好々爺。一ツ橋組の頂点に立つ会長の威厳もどこへやら。

隣りに凛として佇む着物姿のおばあちゃんが咳払いをしてみせた。

「おばあちゃん、ただ今戻りました」

きちんと頭を下げて挨拶。

「お帰りなさい。宮子、仁さん」

「・・・ただ今戻りました大姐さん」

この家に帰って来た時はそう挨拶するよう、子供のあたし達は厳しく躾けられて育った。今でもそれは変わらない。

「宮子お嬢、仁と一緒でしたか」

おばあちゃんの反対側に控えてた哲っちゃんの甘い笑みに、思わずうっとり。

黒の三つ揃いにグレーのシャツ、赤紫色のネクタイ。モデルでもやった方がいいんじゃないかってぐらい、いつ見ても何色着ても渋くてカッコイイ。

「ただいま哲っちゃん!」

遠慮なしに抱きつくと、頭を柔らかく撫でてくれる。

「あ、お父さん。ただいま」

「・・・ああ」

くっついたままで、その隣にいたお父さんにあっさり目な挨拶。

懐き方には明らかに温度差が見えるだろうけど、別に仲が悪いとかじゃなくてね。口数少ないヒトだし、こういう甘え方したこと無かったし。その点、哲っちゃんは昔から抱っこもおんぶも甘え放題だったから。

「ねぇ哲っちゃん、遊佐は?」

躰を離して視線を傾げる。榊も姿が見えない。

「すぐ戻りますよ。それまで仁を傍に置いてやってもらえませんかね」

哲っちゃんの言葉に仁兄は、肩を竦めるようにして「折角だ、食べないと損だぞ」と、テーブルの方へあたしを誘ったのだった。
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