愛は、つらぬく主義につき。
仁兄とも軽く挨拶を交わして去って行った相澤さんに、まだぼーっと見とれてるあたし。

「イケメンコンテストやったら、哲っちゃんと相澤さんで一騎打ちだねぇ」

「・・・ジジコンだったのか、お前」

隣りが呆れてた。
そうだ。さっき仁兄、なんか言いかけたような。訊き返そうと思ったら。

「宮子!」

榊に車椅子を押された遊佐がやっとあたしを見つけた。

榊は普段と全く変わらない恰好だったけど、遊佐は久々にスーツ着てる。黒の上下に白のシャツ、細めの紫色のネクタイ。贔屓目でもカッコイイ。胸の中がキュっとなった。それを誤魔化すみたいに。

「遅ーいっ。何やってたの、もう!」

「拗ねンなよ、ちょっと野暮用。・・・仁兄がお守りしてたの?」

「成り行きだ。自分のモノは自分で面倒見ろ、俺は行くからな」

「わぁってるよ」

「仁兄またね?」

立ち上がった仁兄は、手を振るあたしに一瞥をくれて人波に紛れてった。 

「遊佐なんか食べる?取ってこようか?」

「ん、テキトーで。あとビールな」

「わかった。榊も行こ」

俺もか、みたいな仏頂面も当然気にしない。

そのあとは三人でダラダラ食べて飲んで。どこからともなく聴こえて来る大っきな笑い声とか、顔繋ぎの挨拶だとかをBGMに、宴はまだまだ始まったばかり。

赤ら顔したほろ酔い加減のオジサマ連中がご機嫌になってくると、会社の宴会とどこも変わらない。おじいちゃんや上役の面々は広縁に腰掛け、石庭の枝垂れ桜を肴に歓談中だ。

「このあとって何か企んでんの?」

古希のお祝いだし、遊佐ならおじいちゃんにサプライズくらいは考えてそう。顔を覗き込むと、白々しく目を逸らして「さあ」って嘘ぶく。

あたしはピンと来てほくそ笑んだ。

「アレでしょ、どっかの芸妓さん呼んであるとかでしょ」

反対側にいた榊がむせた。ビンゴ。おじいちゃん、お座敷遊びもキャバクラも大好きだもんねぇ。

上に立つ人間は口説き上手が多いって聴くけど、あれかなぁ、お父さんは反面教師で硬派なのかなぁ・・・。おじいちゃんの隣りで黒の紋付着たお父さんの背中を眺めて、そんなコトを思った。

寡黙なお父さんを支える口説き上手な哲っちゃん。榊と遊佐。・・・なるほど、世の中って上手いコト出来てるんだなぁ。
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