愛は、つらぬく主義につき。
「宮子お嬢、今夜はまた一段とお綺麗だ」

「・・・こんばんは、青柳(あおやぎ)のおじさま」

ふいに目の前に立った胡散臭そうなキツネ顔に、あたしは一気に温度が冷めるのを感じた。それでもなけなしの愛想笑いを浮かべて見せた。

本人はオシャレなつもりなのか、マオカラースーツがいつもチャイニーズマフィアに見えてしょうがない。組にとって参謀的な役割もしてる人らしいけど、ズルくて計算高そうな目をした好きになれないタイプ。
 
「こうして会長が健やかに古希を迎えられるのも、ひとえに可愛い孫娘のためという張り合いもあるからでしょうな」

にこにこ笑っているようで、目の奥は冷たいガラス玉。

「いえ・・・。おじさまをはじめ、哲っちゃん達がしっかり組を仕切ってくれてるお陰です。これからもおじいちゃんを楽させてあげてください」

あたしは冗談めかして強かに応える。

こういう物言いをしてくる時はたいがい、腹にイチモツ抱えてるに決まってる。胸の内で静かに構えた。さっきよりも更に目尻を下げた化け狐が笑う。

「もちろんですとも。何よりお嬢が、然るべき相手と一緒になってこの一ツ橋を盛り立ててくれれば、なおのこと安泰というものですよ」

・・・やっぱり来た。内心で舌打ち。薄笑いで切り返した。

「おじいちゃんもお父さんも、あたしの結婚はあたしに任せてくれてますし。第一哲っちゃんがいるんですから、跡目だって心配ないでしょう」 

「ごもっともですな。まあ、若頭代理の空席には木崎をどうかという意見もありましてね。ゆくゆく宮子お嬢と臼井の名を継ぐのも悪くないかも知れませんな」

含み笑いを残して態度だけは恭しく。言うコト言ってった背中に中指立ててやりたい心境。

なーにが『悪くないかもしれませんな』よ。あたしと仁兄がなんだっての!地球が逆さまになっても、そんなの有り得ないんだからねぇっっ。あたしと遊佐のコト知ってて言ってくる、あの厚かましさったら。あーなんか今すぐ殺っちゃいたい!!

「みーやこ、カオ怖いよ?」

眉下げた遊佐に茶化された。なによ他人事みたいに。思いっきり不機嫌ガオで睨めつける。

「オマエと仁兄の話なんか今更じゃねーから。これからも言われんだろ」

事もなげに笑ってた。
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