愛は、つらぬく主義につき。
3-2
「なんで遊佐は素直にウン、て言わないかなぁっ?!」

「そうねぇ・・・まあ男にはイロイロあるのよ」

「あたしが結婚したいって言ってんだからいーじゃない、それで!」

「でもねぇチヨちゃん。男だったらやっぱり逆プロポーズはないって、思っちゃわない?」  

「そんなコト言ったってぇ」

カウンター席でママ相手に愚痴を言いまくってるここは、BAR『亞莉栖(アリス)』。

ママはユキちゃんって言って、見た目はさっぱり系さわやかさんな男性。シャツにジーンズとか、身だしなみも普通にメンズファッションだったりする。話せばオネエってだけで年齢は不詳。一ツ橋組の情報屋さんでもあって、哲っちゃんの子飼いらしい。

遊佐や榊と来ることもあれば、ひとりで来て話し相手になってもらったり。頼りになるオネエさんで、付き合いはもう何年になるかな。

「本家の一人娘をもらうってなったら、若頭の息子と言えども結構な覚悟がいるって思うわよ?」

ユキちゃんは優しく諭すように、でも言うコトは的を射てて。いつの間にか慰められて励まされてる。いつもいつも。

「焦っちゃだめよチヨちゃん。機が熟す時ってね、必ず来るんだから」

「・・・そっかなぁ・・・?」

やるせない溜息が漏れる。

「大丈夫。マコトちゃん、チヨちゃんひと筋じゃない」

カウンターを挟んでグラスを拭きながら、ユキちゃんが片目を瞑って悪戯っぽく笑う。

「・・・分かってるから余計にさ」

もどかしさが苦しくなるコトがある。

「アタシはいつだってチヨちゃんの味方よ?」

「ユキちゃんに言われるとガンバれる気がするーっ」

 よし。自分で自分の背中を押してみた。

「その意気。カシスオレンジおかわりする?」

「うん。ありがとユキちゃん!」

やっと笑顔も出たあたしに、どういたしまして、とにっこり微笑みが返った。

ちなみに、チヨちゃんていうのはユキちゃんが付けたあだ名。ミヤコ蝶々(ちょうちょう)って女優さんだったかな、往生しちゃった人がいてね。ミヤコ繋がりで『蝶々ちゃん』が詰まって『チヨちゃん』。

ユキちゃんのセンスはいいのか悪いのか、ちょっと良くわからない。
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