愛は、つらぬく主義につき。
「古希祝いで思い出した」

あたしは心底うんざりして、また愚痴っちゃう。

「あたしと仁兄を結婚させようとするヤツとかいてさ。仁兄だよ?あり得なくない?!」

「・・・悪かったな俺で」

いきなり頭上から凄みが効いた低い声。

驚いて振り返ったらダークなスーツ姿の仁兄が。眼鏡の奥から冷え冷えした眼で見下ろして、仁王立ちしてた。

「いらっしゃーいジン君」

ユキちゃんが愛想よくお迎えする。

隣りのスツールに無造作に腰掛けた仁兄は、ビールを注文してこっちに横目を流した。

「一人か?珍しいところで会うな」

「うん。・・・あれ?寄り合いやってんじゃないの?遊佐、本部に行ってるけど?」

腕時計を見ればまだ二十一時すぎ。真っ只中じゃないの?首を傾げたら事も無げに言われる。

上層部(うえ)の連中だけだ、関係ねぇよ」

「ふぅん」

仁兄とこんな風に並ぶのも初めてで、よく冷えてそうなグラスビールを半分まで呷る姿は新鮮なカンジがする。 

「・・・お前、さっきの『あり得ない』はどう『あり得ない』んだ?」

なんか。目が座ってますけど、おにいさん。

「仁兄がどうとかじゃないってば」

軽く溜め息。

「だって、遊佐がいるの知っててわざと言ってくるんだもん。あり得ないでしょ?そーいう意味だから誤解しないでね」

黙って残りを飲み干した仁兄。

遊佐ほど口数多くないのも気にはならないんだけどさ。何を考えてるのか、読み辛いヒトではあるかな、うん。
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