愛は、つらぬく主義につき。
「真が終わるまでの時間潰しで来たんだろう?」
 
「じゃなくてねぇ、何時に終わるか分かんないから今日は逢えないって。だからユキちゃんの顔見に来たのー」

ユキちゃんとニッコリ。

「ならちょうど良い」

「?」

「宮子を口説くのに邪魔が入らずに済むって話だ」

仁兄は淡々と言ってこっちを見た。

整った顔があたしをじっと見据えるから。思わず視線を外して宙を泳がせる。本気で言うワケない。あたしは冗談で終わらせようと乾いた笑顔で受け流した。

「仁兄、もしかして彼女にフラれちゃったの?自棄(ヤケ)になってあたし口説かなくたって、すぐ誰か見つかるから大丈夫だってば!」

「・・・俺と結婚しろ宮子」

噛み合ってない会話と、その爆弾発言を脳ミソが咀嚼する前に、二発目をぶち込まれた。

「あの脚じゃ真はもうお前を守りきれやしない」 

仁兄は父親違いでも遊佐のお兄さんだ。あたしにとってもそうだった。歳がちょっと離れてるから、一緒に遊んだ記憶は薄いけど。面倒臭そうな素振りしても、宿題手伝ってくれたり試験勉強おしえてくれたり。頼りになるお兄ちゃんだった昔から。

大学出て、コンサルティング会社を自分で立ち上げて。今は哲っちゃんの組下で、小さい事務所構えて組長もやってる。見せないけど努力家で、あたしの自慢のお兄ちゃん。

その仁兄が。なんて言ったの?

心がひしゃげる。潰れそうになる。
 
「・・・・・・なんでそんなコト言うの・・・?」  

顔を歪めて堪えてるあたしを、仁兄は顔色ひとつ変えず見据えてた。

「あたしは遊佐に守って欲しくて一緒にいるワケじゃないよ・・・!自分の身ぐらい自分で守る、今度はあたしが遊佐を守る。一生そばにいるって決めてるんだから絶対に・・・っっ」   
 
口惜しくて悲しかった。切られたみたいに痛かった。

それ以上聞きたくなくて、バッグを鷲づかみにする。逃げるようにスツールから下りたのを二の腕を掴まれた。

「・・・自分の立場を自覚しろ宮子。臼井の跡取りはお前だけなんだぞ」

冷ややかな眼差しごと振り切り、足早に店を出た。

ただ仁兄の言葉がショックだった。自分の部屋に帰るタクシーの中で、込み上げてくるものを必死に我慢した。 

その夜は一人、嗚咽を殺さずに泣き濡れた。
 


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