愛は、つらぬく主義につき。
4-1
あの夜のコトは遊佐には話さなかった。仁兄にどんな思惑があるんだとしたって、あたしは変わらないから、それだけのこと。

時間を置いてあたしなりに、冷静に分析してみた。すぐに思い浮かんだのは、古希祝いの時の青柳の狐ジジイ。若頭代理の席を餌に、仁兄にあたしとの結婚をたきつけるぐらいはやりかねない。

仁兄にだって野心も欲もあるだろう。今あたしを手に入れれば、遊佐に取って代われる。いずれ一ツ橋の頂点に立つ男になれる。それで遊佐を見限って結婚しろだなんて。・・・仁兄を見損なったわよ。

悔しいとか憎らしいより、苦さと悲しさの方が大きい。冷たそうに見えたって、あたしと遊佐のコトは家族として愛してくれてるって信じて。・・・信じたいって思ってるのに。

知らない内に盛大な溜め息が漏れてたらしい。

「宮子ちゃん、何か心配ごと?」

瑤子ママの声にはっとして、無理やり笑顔を作った。

「ううん何でもない」

いくらママでも相談できる話じゃない。誤魔化すように違う話題を振る。

「ママ、これあと何個ぐらい作るの?」

キッチンカウンターで、大きなボウルいっぱいの餃子のタネを、ぎこちない手付きで皮包みしてるあたし。

「本家に500個ぐらいはって思ってるのよ?うちは100個くらいあればいいかしら」

数字を聴いて、かなり先の長い修行を覚悟した。

簡単に言いながらニッコリ笑った隣りのママは。薄化粧で長い髪を軽く結わいてるだけの、ラフな姿でも色っぽくて綺麗。哲っちゃんがゾッコンなわけだよねぇ。

今日からゴールデンウイークの大型連休に突入で、夜は餃子パーティに誘われたから、午後いちで遊佐家に来てママを手伝ってるんだけど。すぐそばの実家に帰んないで、哲っちゃん家に入り浸りの娘って。やっぱり親不孝者かなぁ?
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