愛は、つらぬく主義につき。
お父さんのゴルフ接待の付き合いで出かけてた哲っちゃんと、留守番で本家に詰めてた遊佐と榊が帰って来たのは夜の八時過ぎ。

「お帰りなさい哲っちゃん!」

濃色のシャツにベージュのチノパンていうカジュアルな恰好でも、イケメンはやっぱりイケメン。抱き付いて出迎えると頭を撫でられる。いつもの儀式だ。

「・・・ただ今帰りましたお嬢」

「オレより親父が先って、どンだけなのオマエ」

後ろで松葉杖片手に立ってた遊佐が心底呆れてるから、しれっと言い返した。

「だって哲っちゃんがこの家の家長さんだもん」

それからちょっと背伸びして軽くキス。

「おかえり遊佐」

「ん、ただいま」

キスが返ってこれもあたし達の儀式。その隣りを見上げては、からかい気味に。 

「榊もしたげよっか?」

「・・・いるか馬鹿」

うんざり顔もいつも通り。

「・・・・・・お前達は相変わらずだな全く」

だから、突然その後ろからした声にあたしは息を呑むしかなかった。ぬりかべみたいにそそり立つ、榊の陰に気付いてもなかった。スーツ姿の仁兄がいたコトを。

自分の顔が強張ったのが分かった。遊佐に気取られないように平然を装い、仮面を貼り付けて上辺だけで笑った。

「・・・ごめん気付かなかった、榊がジャマで。珍しいね仁兄がくるなんて」

目が合う。お互いにどこか探り合いの色を乗せて。

「たまたま本部で会ったら真に引っ張ってこられただけだ」

嘘だなんて思ってないけど。神サマってほんと意地悪すぎだよ、このタイミングでなんて。

「そっか。お疲れさま、上がって?」

言いながら来客用のスリッパを揃えて出す。

「ここは俺の家だろうが」

ククッと可笑しそうに笑い、仁兄はあたしの頭をひと撫でして廊下の奥に消えてった。

深く息を逃して、あたしはお腹の底に力をこめる。もし仁兄がなにを言い出したとしても、自分がブレたりしないように・・・!
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