愛は、つらぬく主義につき。
『しゃんとなさい、宮子がそんな事で真さんはどうしますか。貴女が本気で真さんと連れ添いたいと思うなら、ここが正念場ですよ』

お化粧しても幽霊みたいに生気もない顔をして、連れて来られたのはどこかの甘味処だった。

気が付いたら目の前にお汁粉やら、ぜんざいやらクリームあんみつがこれでもかって並んでた。

『好きなのをお食べなさい。甘いものは元気が出ますからね』

ほんのり笑んだおばあちゃん。

濃いお抹茶の苦みと、甘すぎない甘味。ともすると涙が滲みそうになるのを堪えながら、厳しくも優しいおばあちゃんの心遣いがほろ苦く・・・染みた。

『・・・榊が真さんに言ったそうですよ、宮子を責められるのかって』

しばらくしておばあちゃんが言った。
 
『脚のせいで自分の思い通りにならないのを、八つ当たりしたようにしか聴こえないと。・・・貴女たちを大切に思うからこそ言えた言葉でしょうね。好い友人は大切になさい』
 
榊は何度もそうやってあたし達を掬い上げてくれた。一番苦しい時に黙って横から手を伸ばし、力いっぱい引き上げてくれた。

『今日はここに真さんも呼んであります。これからの事は二人次第ですよ宮子』

どんな顔をすれば良いかも分からない内に、松葉杖をついた遊佐が姿を見せた。

『大姐さんにまでご迷惑をおかけして申し訳ありません』

テーブルの脇に立ち、おばあちゃんに向かって深く頭を下げ、それから。あたしに向いた。

『・・・ごめん宮子』

静かに悔いた眼差しだった。

嫌われたんじゃないんだって一気に張り詰めてた緊張がほどけた。ポロポロ涙を零してすすり泣くあたしの頭を、遊佐は何もいわずに立ったまま抱き寄せて撫でた。

行ったり来たりする掌の安心感に、切なくてもあんなに泣けるものなんだって初めて知った。

失くしたらあたしは生きていけない。心底思い知った瞬間だった。
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