愛は、つらぬく主義につき。
しばらくして榊が戻ると、遊佐は何もなかったみたいにあたしにキスを落とし、悪戯っぽく笑った。

「オレはもーちょい呑んでくから、きっちり俊哉に送ってもらいな」

「・・・うん。じゃあまた土曜日ね?」

「オヤスミ」

おでこに締め括りのキス。ユキちゃんにも心からお礼を言って店を出た。
 
路駐してたミニバンの後部シートに、半分押し込まれるみたいに乗せられたから、発進した車内であたしは猛抗議。

「さか・・・っ、もうちょっと丁寧に扱いなさいよッ」

「シートベルト。・・・しとけよ」

低い声でにべも無い。その後はダンマリで。

遊佐が来なかった理由がようやく分かった。何かあったのかって、あたしに追及されたくなかったから。榊なら絶対に口を割らないし。わざと大きく溜め息を漏らした。

「あのさ榊」

「・・・・・・」

応答なし。こっちも地の底を這うような本気声で。

「返事くらいしないと絶交するよ?」

「・・・・・・なんだよ」

「ナンかあったの?」

「・・・・・・・・・」

言うハズないのは知ってるけど。質問を変える。

「遊佐を残してきて平気?」

「・・・ああ」

あの脚じゃ、何かあってもどうしようもなくなる。榊が心配してないならそれほどのコトじゃない。ホッとした。

背もたれに躰を預け、車窓越しに闇に流れてく光の帯をぼんやり眺めながら。

「・・・・・・ねぇ榊」

「・・・なんだ」

「あたしはいいから。・・・あんたは遊佐を守ってやってよ」

これを口に出して言ったのは初めてだなぁと思った。自分でもどうして伝える気になったのか。

ややあって榊がポツンと答えた。

「お前ら二人して同じこと言ってんじゃねぇよ」
< 49 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop