愛は、つらぬく主義につき。
遊佐は前を向いたまま何も答えなかった。それが答えだった。

「仁兄が本気であたしを横取りしたいなら、こんな回りくどいやり方しないよ。それにね」
 
足を止めると回り込んで目の前に立つ。

「遊佐の気持ちばっかり代弁してた。弟思いすぎでしょ」

ひじ掛けに頬杖をついてしばらく黙ったままの遊佐を、上から見下ろして何か言うのを待った。 

あたしが仁兄との結婚なんて承知するわけないのを知ってて、なんで仕掛けたの。

オリーブアッシュの髪が揺れて遊佐があたしを見上げた。深く目が合ったのは一瞬。淡い笑みが滲んでた。

「仁兄が宮子を好きなのはホントだけどな」

目を見張るあたしに困ったように笑った。

「でなきゃ頼めねーって。オレの大事な女なのに」

「・・・あんた、言ってるコトめちゃくちゃ・・・」

大事な女。ただそれだけで涙腺が半分崩壊した。鼻をすすり上げて必死に堪える。

「でもそれしかないからさ。オマエは仁兄と結婚しな」

なによそれ。

言い返そうとしたのに、その前に涙腺がぜんぶ堰を切っちゃったから。遊佐が腕を引っ張って、膝の上に座らせたあたしをきつく抱き締めちゃったから。子供みたいにしゃくり上げて泣くしかなかった。

「・・・宮子・・・っ」

振り絞るみたいな遊佐の声を聴いた。

抱き込む腕にもっと力が籠って、痛いのか苦しいのか、悲しいのか怒りたいのかすら。何もかも全部がもうグチャグチャで。

このまま壊れて真っ白になっちゃいたかった。聴きたくなかった。

他の男と結婚しろなんて。そんな死ぬほど残酷な愛の告白なんか。
< 60 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop