愛は、つらぬく主義につき。
遊佐はずっと黙ったままだった。ずっと抱き締めて、あたしが泣き止むまでそうしてた。

「・・・・・・宮子が誰と結婚したってオレはオマエの傍にいるよ?」

顔を上げる前に切なそうに笑う気配がした。

「一生、離れないで守ってやる。・・・病める時も健やかなる時も、何があっても最期まで」

まるで。誓いの言葉みたいだった。

「オマエが幸せになるのを見届けるまで、ちゃんとオレはいるから」

まるで。別れの言葉だった。

心臓が嫌な音を立てて軋み始めてた。躰の芯から凍てついてくようだった。息が出来なくなりそうだった。

「オレもオマエとは結婚しない。誰ともしない。・・・死んでもしない」

吹っ切るよう声で遊佐は笑った。
 
イヤだ、って。ふざけるなって。怒って引っ叩いて喚き散らしたら、もっとわんわん泣いて引き留めたら。遊佐は考え直してくれる?

あたしは知ってる、一度決めたコトは翻さない男だって。自分と信念は絶対に曲げない男だって。 

足許が崩れて奈落の底に落ちてくのを、自分のことじゃないみたいに感じてた。

光がどんどん遠ざかって闇しかなくなる。

セカイが絶望だけに塗り替えられてく。

「・・・あとは自分で帰れるから宮子は戻りな」

オヤスミ。そう言って遊佐はいつもと変わらない笑顔で、ゆっくり車椅子を動かして行った。少しずつ離れてく背中をあたしは追いかけられなかった。

追いかけたかった、縋りつきたかった。でも出来なかった。躰が鉛になったみたいに動かなかった。心だけ血だらけになって泣き叫んでた。

その場に崩れ落ちて座り込んだまま。榊が探しに来るまで、目から涙を流し続ける人形のように壊れて、地面に落ちてた。




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