愛は、つらぬく主義につき。
誰かに作ってもらうご飯は格別だ。お腹が満たされると頭の中が少し冴えた気がした。

洗い物を片付け、テーブルの上には片方ミルク入りのコーヒーのマグカップを二つ。哲っちゃんが静かに切り出す。

「真もいっぱしの極道者だ、手前ェにしか通せねぇ筋がある」

ただ慰めに来たんじゃないのは分かってた。それだけなら瑤子ママでも良かった。納得させる為に今日ここに来たんだってこと。

「お嬢に惚れ抜いてるからこそ、身を引く決心をしたんだろうさ」

子供に言って聞かせるように哲っちゃんの声は穏やかだった。

「だから恨んでくれるな、とは言わないがね。命より大事なものの為に意地を貫くしかねぇ時もある」

やんわりと急所にめり込んだトドメの矢。顔を歪めたあたしの頭を哲っちゃんは大きな掌で撫でた。
 
「俺も瑤子も、このさき苦労を背負(しょ)わせると分かってて、お嬢をもらう訳にも真をくれてやる訳にもいかねぇと思ってる。・・・何より朋美(ともみ)さんに申し訳がたたんよ」

亡くなったお母さんの名前。そういう言い方はズルい。

「・・・あたしは苦労だなんて思ったりしないよ・・・っっ」

声を振り絞った。

「好きな人と生きるのがなんで苦労なの?普通より大変なのは分かってる。でも似たような境遇の人達だっていっぱいいるよ。結婚して幸せになってる人もちゃんといる。遊佐とならなんだって頑張れる、それが愛してるってコトでしょ・・・?!」
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