愛は、つらぬく主義につき。
「それでチヨちゃんはジン君と結婚するの?」

ひとしきり泣いたあたしの前にファジーネーブルが置かれ、ユキちゃんがさらりと核心をつく。

「・・・仁兄が嫌いとかじゃないよ。大事なお兄ちゃんで・・・尊敬もしてる」
 
あたしは言葉を選びながら。

「・・・でも仁兄は仁兄だから。遊佐の代わりなんて・・・誰もなんないもん」
  
ねぇ仁兄。

あたしが誰と結婚しても傍にいる・・・って。最期まで離れないって、あたしを守ることしか考えてない男を置き去りにして、どうして結婚できるって言うの?

心が千切れそうなくらい愛してる男がいる女を、仁兄は愛せるの。

「誰も幸せになれっこないよ、そんな結婚・・・」

眸を歪めてあたしは弱弱しく(わら)った。

どんなに恨まれてもかまわない。仁兄はそう言ってた。あれは、遊佐が好きなままのあたしを引き離す覚悟で・・・って意味だった?あたしが仁兄を男として愛せなくてもそれでも?

心臓がリアルに締め付けられて痛い。痛くてもう捨てちゃいたい、臼井宮子なんか。

守られるためだけの人生なんて。そんなものの為に遊佐を、仁兄を、傷付けなきゃならないなんて。

「いなくなっちゃえば良いのかな、あたしが・・・」

考えれば考えるほど絶望に蝕まれる。暗い海の底にどんどん沈んでく。どんどん。

「駄目だよ、宮子お嬢」

ユキちゃんは男の顔であたしを静かに見据えてた。

「まだお嬢は何もしてない。真とちゃんと真正面からぶつかってない。仁ときちんと向き合って自分の気持ちを伝えてない。あきらめ方を間違うな」
< 69 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop