愛は、つらぬく主義につき。
沈んでくあたしを引き戻す強い腕。ずっと女同士だって思ってたのに、いざって時のユキちゃんは大人の男だった。

暗い海底が遠ざかって、あたしはおずおずと顔を上げる。『あきらめ方を間違うな』が響いた。水から掌に掬い上げられた気がした。

「・・・そう、だよねぇ」

ゆるゆると長く息を吐いた。

「ちがうよねぇ・・・」

独り言のような呟きに、にっこりと微笑みが返る。

「思い切って行ってらっしゃい。大丈夫、骨はしっかり拾ってあげるから」

「うん、・・・ありがと。任せるね」

「任されたわ」

オネエ言葉に戻ったユキちゃんは悪戯っぽく片目を瞑った。それから少し考え込む仕草で。

「ねぇチヨちゃん、時間あるわよねぇ?明日は休みでしょ?」

「?うんまあ・・・」

「今ね、相澤さんが出張中でオリエちゃんも寂しいと思うのよ。これから行って、話相手になってあげてくれない?」

・・・・・・・・・はい?

意味が分からずに思考回路がフリーズ。相澤さんて、あの相澤さん?三の組の?オリエさんて確か、奥さんの名前だったよーな??

ユキちゃんはスマホを手にすると、素早く操作して誰かに電話をかけた。

「もしもし高雄?悪いけど迎えに来てちょうだい。誰って、ウチのお嬢に決まってるでしょ?宜しくねぇ」

かなり一方的に通話を終わらせたユキちゃんは事もなげに。

「弟が来るまでなに飲む?」

やけに楽しそう。語尾にハートマークでも付いてそうな彼女に、目を丸くするしかないあたしだった。
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