愛は、つらぬく主義につき。
「・・・元警察のですか?」

遊佐は特に驚いた様子でもなく受け答える。

「峰さんと主人・・・渉さんとは長いお付き合いで、わたしにとってもお父さんのような存在です」 

織江さんは淡々と話を続けた。

「渉さんは以前、自分に何かあった時には峰さんを頼れと言ったんです。わたしは堅気で身寄りがないので、それを思って言ってくれたんだと思います」

遊佐もじっと聞き入ってる風だった。

「あのひとはいつでも命を捨てる覚悟があるんです。だから峰さんに後を託そうとしてました。・・・わたしは渉さんに、誰にも譲らないでとお願いしました。自分のものだと言ったくせに、途中で投げ出すなんて渉さんらしくない・・・って」

彼女は何かを待つように言葉を切って遊佐を見上げ。おもむろに遊佐が口を開く。

「・・・相澤代理はなんて」

「嫌がっても最期まで道連れにするから恨むな、覚悟しとけって。逝く時は一緒だと、絶対に離さないと約束してくれました。・・・嬉しかった。わたしは渉さんがいない世界で生きられるほど強くないから」

強くないと、揺るぎなく答えた織江さん。

あたしも遊佐がいないだけでこんなにも脆い。セカイも自分も丸ごと崩れて、このまま朽ち果てたいと願うくらいに。

人間は弱い、でも愛する誰かの為だったら死ぬ気でなんでも出来る。失いたくない、守りたいってその原動力が初めて強さになる。そう思えた。

「・・・わたしはわたしで、宮子さんは宮子さんです。渉さんと遊佐さんも生き方は違う。・・・でも敢えて言わせてください、本当にこれで宮子さんは幸せになれますか?貫く覚悟を間違ってほしくない、わたしは」

「ストップ。・・・それ以上はただのお節介だバカ女」

言い募ろうとした織江さんの口を、後ろからすっと手で塞いだのは藤さんだった。

「なに熱くなってんの。・・・帰るよ結城」

あたし達に反対の手をひらひらと振ってみせると、そのまま問答無用で織江さんを抱きかかえるようにして方向転換させ、戻ってく。

「相変わらずだなー藤代さんは」

遊佐が頭を掻きながら。

それより織江さんを『バカ女』呼ばわりしてたよーな。ここの主従カンケイって不思議・・・?
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