愛は、つらぬく主義につき。
新幹線の発着もあるそこそこ大型な駅には、若い子向けのショッピングビルを始め、老舗の百貨店も建ち並ぶ。

土曜ってコトもあって地下駐車場に入るまでがちょっと渋滞だったけど、店内通路に近い場所に空きを見つけて榊はセレナを滑り込ませた。

遊佐が降りて来るのを待つあいだ、榊はバックドアを開いて折り畳み式の車椅子を準備する。あたしは外で遊佐の様子を気にかけながらも、手助けはしない。そういうのは嫌うから。

少し自由の利かない右足を引き摺り気味に、左足を軸にして遊佐はゆっくりステップを下りる。榊が車椅子を押して近付くと「サンキュ」って笑って、またゆっくり身体を折りながら腰を下ろした。

「じゃ行くか」

「うん」

エレベーターに向かって車椅子の隣りを歩く。遊佐を押してる榊があたしの歩調に合わせてくれて。こうやって三人でならどこにでも出かける。二年前と変わらずに。

「最初に呉服売り場見て、あとは紳士服売り場かなぁ」

上階から降りてくるエレベーターを待ち、あたしは遊佐に視線を落とした。

「よくさぁ数珠みたいなブレスレットあるだろ?あんなのは?」

こっちを振り返る悪戯っぽいカオ。

「えー。ぜったい数珠と間違うよ、おじいちゃん」

「誰もツッコまねーよ」

クスクス笑い合って。
 
同じくエレベーターを待ってる、パパに手を繋がれた小っちゃな女の子。タイヤが付いた(動くだろう)イスと遊佐を、交互に不思議そうに眺めてる。あたしの視線に気付いたからニッコリ笑んであげた。
 
白い杖とか車椅子とか、前は見かけるとやっぱり特殊に感じてた。普通より弱者の立場であるかのように勝手に。けど遊佐がね。

『どうせなら、めいっぱい利用してやりゃいーんだよ』

あっけらかんと、割りと良心的に優先される立場をフル活用しなきゃ損だって、笑い飛ばした時。

何かを遠慮したり普通と違うって負い目を持つのは、ただの卑屈だって知った。心底敵わないって、自分の情けなさに呆れて悔やんで。

遊佐の隣りで無邪気に笑えるぐらい強くなろうって、決心できたんだよ。
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