愛は、つらぬく主義につき。
「仁兄の部屋って、初めてだね」

 電話から三十分と経たない内に、運転手付きの高級セダンでマンションまで迎えに来た仁兄。
 邪魔が入らないトコで話がしたいと告げたあたしに、自分のマンションでいいかと訊ねた。
 
 織江さんのトコみたいに高層じゃないけど、わりと繁華街に近い街中に佇む2LDKタイプのマンション。
 今は窓から見下ろす景色は点描画みたいな夜景だけど、八階なら明るいとまた違うんだろう。

「適当に座ってろ」

 モノトーンで統一された男の人らしい部屋。黒の革張りのソファセットだとか、濃紺のカーテンとか白いサイドボードとか。シンプル過ぎて女の影もカタチもないってゆーか。
 好奇心丸出しでキョロキョロと見渡すあたしに、キッチンから溜め息雑じりの声が。

「・・・先に言っとくが、ここに女を入れたことは無いぞ」

「そうなの?!」

「何だ?」

 不本意そうに。

「だって、来たいって言わない?、彼女って」

「いちいち連れて来ねぇよ、遊びの女を」

 ・・・・・・・・・。案外ただれてんだな、仁兄って。


「ビールでいいか」

「あ、うん」

 缶を二つ手に、戻った仁兄はガラステーブルの角を挟んだ一人掛けのソファに座った。
 結び目に指をかけてネクタイを緩めると、プルタブを押し上げ軽く喉に流し込んでる。あたしはじっとそれを見つめてた。

「もしかしてどっかで飲んでた?」

 テーブルに缶を置くのを見計らって。

「ごめんね、急に」

「いや。ちょうど抜けたいと思ってた矢先だったしな。助かった」

 時間はとっくに深夜を回ってる。
 早めに本題を済ませようと、あたしは前置きなく切り出した。

「こないだの話、あたしはやっぱり仁兄とは結婚できない。・・・どうしても」
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