愛は、つらぬく主義につき。
 臼井宮子が何者なのかを、あたしは分かってるようでまるで解ってなかった。

 今さら思い知ってる気がする。組を継ごうが継ぐまいが、自分は極道(こっち)側の人間でしかないんだってコト。
 絵空事でも他人事でもなく、いつ命を狙われてもおかしくない側。二年前のあの事故がもし。あれが遊佐にとって未だに消せない悪夢なんだとしたら。 
 あたしを死なせたくないって。追い込まれて自分の無力さに歯噛みして。身を切る思いで、仁兄に託そうって。
 
「・・・・・・・・・女は一緒に死んでくれって言われる方が、嬉しいに決まってるんですけどね・・・」

 あたしは弱弱しく微笑んだ。

「・・・相澤さんは強いから大丈夫ですよ、きっと。・・・最期まで織江さんを守ってあげられます」

 そうであるようにとココロから願いながら。






 マンションに車が到着して、あたしはあらためて相澤さんにお礼を言う。

「今日は本当にありがとうございました。織江さんにも宜しく伝えてください」

「・・・これぐらい礼を言われるほどじゃありませんよ。お嬢さんにはまだ返し足りてませんので」

 惚れ惚れするくらい端正で男前な相澤さんに淡く笑まれて。心臓が跳ね上がるわ、顔が熱くなるわ。

「いえ、十分すぎです・・・!」

「何かの時には藤も役に立つでしょうから。好きに使ってやってくれて構いません」

 ・・・それはちょっとハードル高そうな気がするんですけど。
 返した笑顔は若干、乾いてた。 

「・・・そう言えば木崎は近々、正式に若頭代理を襲名するようです」

 あたしの視線が固まって相澤さんとぶつかった。

「優秀な男ですから、臼井の跡取りとしても申し分ないと思います。“妹”としても慶(よろこ)ばしい限りでしょう」

 

 夜道を走り去る車をぼんやり見送り。
 頭の中では、さっきの相澤さんの言葉がぐるぐると渦を巻く。

 後悔する前に。
 その後で、いくらでも灰になればいい。

 踵を返しマンションの階段を足早に駆け上る。


 泣いてるヒマなんかもう無いんだから。

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