愛は、つらぬく主義につき。
「・・・家の為に仁兄と結婚しろって言うの、おばあちゃんは」

「真さんが、宮子と仁さんの結婚を望んでいるんです。貴女は叶えるべきでしょう。・・・初めは無理でも、時間が経てば受け容れられます。そもそも仁さんを嫌いではないのですから、いつか真さんのことも忘れてしまえますよ」

 きっぱりと言い切ったおばあちゃんは、今度は遊佐に顔を向ける。

「真さんも。仁さんと宮子は互いを想い合える関係になれます。何の心配も要りませんから、これからは貴方は貴方の人生を好きにお生きなさい。ずっと宮子を守ってくれたこと、心から礼を言います」
 
 凛とした声が響いた。

 目を見開いて言葉も無いあたし。完全に遊佐を切り離されて、仁兄との結婚を宣告されたも同然だった。

 切られた蜘蛛の糸。

 おばあちゃんは味方でいてくれてるって、勝手に思ってた。あたしの気持ちを分かってくれてるハズだって。最後の最後は、おばあちゃんが遊佐の気持ちを引き留めてくれるかも、って淡い期待さえ抱いてた。

 指の隙間から全部がこぼれ落ちて、砂粒ひとつ残ってない。
 がらんどうになって。涙も怒りも沸いてこない。



 ここまでかぁ・・・・・・。
 
 ぼんやりと。空(くう)を仰ぐ。


 もうこれで。

 遊佐はなにも苦しまなくて、いい。
 あたしを守れないで、自分を責めなくてもいい。
 二年前の悪夢を終わらせてあげられる・・・・・・・・・。

 深く。思う。

 ごめん遊佐。
 こんなことなら、もっと早くこうすれば良かった。
 あたしが離してあげなきゃダメだった。
 ごめんね。
 最後まであんたに辛い思いだけさせた。

 胸の中で伸ばした手。掌を天に向けて花を開かせるように。

 やっと自由だね・・・・・・遊佐。

 

 あたしにしてあげられるコト。
  
 ずっと愛してる。
 忘れたりなんかしない。
 
 神サマ、あたしのシアワセはぜんぶ遊佐にあげるから。
 あたしは遊佐にもらった二十五年分だけで、もう十分だから。


 遊佐を世界一幸せにしてあげて。



 そう思った瞬間に枯れてたハズの涙が頬を伝った。

「・・・・・・ごめん遊佐。・・・あの時・・・あたしが轢かれてれば、よかった・・・」
 
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