毒舌社長は甘い秘密を隠す
午前十時。今日はこれから九条さんと会う約束をしている。
九条さんの都合と合わせられたのは、連休最終日の今日しかなくて、彼の多忙さが目に見えるようだ。
井浦社長はきっと今頃空港に向かっているはずだ。予定通り動いていてくれればだけど。
今夜から彼の自宅で暮らすことになっているのに、詳しい時間は決めていない。連絡が入るまで待っていた方がよさそうだなぁ。
「はい、沢村です」
《おはようございます。九条です》
社用携帯が鳴った。
休みの日に社用携帯が鳴っただけでドキッとしてしまうのは、もはや職業病かもしれない。だけど、今日は九条さんの声が穏やかだからか、すぐにホッとさせられた。
《目黒にお住まいと聞いていたので、とりあえず駅前のロータリーに車を停めているのですが、どうしましょうか?》
「そちらに向かいます。十分ほどお待ちいただけると助かります」
《わかりました。お気を付けていらしてください。あ、焦らなくてもいいですからね》
「ありがとうございます」
九条さんの気遣いに、心がほんわかと温かくなる。
うちの社長だったら、「早く来い。十分も待たせる気か」と文句を言いそうだと思いながら、彼のことを思い浮かべて、つい頬が緩んだ。