毒舌社長は甘い秘密を隠す

 身支度を整えて、マンションを出た。
 九階建てのごく普通のマンションはうちの会社が管理していて、社員は少し安く住むことができる。駅からも徒歩圏内だし、大通りから二区画分離れているから夜もほどよく静かだ。


 目黒駅前のロータリーが見えてきた。
 白いサンダルと昨日買ったばかりの淡いブルーのレーススカート、白のカットソー姿の私が、通り過ぎた店のガラスに映る。

 九条さんは私が探さなくても済むように気を使ってくれたのか、黒い車の横に立っている。
 だけど、長身で顔も小さく、端正な顔立ちの彼がいるだけで周りの視線を集めていて、私が歩み寄るのも気が引けてきた。
 プライベートの九条さんは、スーツ姿とはまた違った雰囲気で素敵だ。白のプルオーバーシャツにデニムを合わせたシンプルな服装なのに様になるのは、彼のスタイルがいいからだと思う。


「お待たせしました」
「お休みの日にすみません」
「私のほうこそ、貴重な時間にお誘いくださってありがとうございます。今日はよろしくお願いいたします」

 挨拶を交わすと、彼はスムーズに助手席に案内してドアを開けた。

< 114 / 349 >

この作品をシェア

pagetop