毒舌社長は甘い秘密を隠す

「昔、ある国にかわいらしい女の子がいました。名前をルナといいます。ルナは、夜眠るのが嫌いです。真っ暗で怖い夢を見ることがあるからです――」

 社長は甘く優しい声で、穏やかに物語を読み始めた。
 でも、こんな体勢ではドキドキしないほうが無理で、私は意識して絵本に視線を向ける。


「ルナがベランダに出て星空を眺めていると、すぐ隣の家の窓から男の子が声をかけてきました。

 ――レオも起きてたの?
 ――うん、ルナがいる気がしたんだ。

 ルナは、星の光が映ったようなきらきらとした目で、レオを見ました。

 ――眠れなくて、お星さまを見ていたの。
 ――それなら、僕が楽しいことを教えてあげる」

 意外にも、社長は読み聞かせが上手だ。
 何度も読んできたのに、彼が読んでくれると真新しさを感じる。
 彼を密かに見上げたら、初めて読む物語の先が気になっているように見えた。

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