毒舌社長は甘い秘密を隠す

 さっきは当たるような態度をしてしまったなと反省しつつ、リビングに戻る。


「急ぎの仕事か?」

 彼女がダイニングテーブルでタブレットを持ちだしていて、髪を拭きながらそれとなく声をかけた。
 そのままキッチンに入り、缶ビールを出す。


「スケジュール確認です」
「そう。ビール飲む?」
「結構です」

 プルタブを引き上げ、ぐびっとひと口。
 もしかして、機嫌を損ねてしまったかと、彼女の横顔を見つめる。

 ……かわいい。
 くりんとしたまつ毛も、予定を呟く唇も全部俺のものにしたい。

 毎日こんなに一緒にいるのに、彼女は俺に振り向いてくれず、あくまでも社長と秘書のまま。
 それどころか、客先の九条さんも彼女を狙っているようで隙は見せられない。

 キスだってしたのに。毎夜抱きしめているのに。
 たぶん、彼女は九条さんを好いている。


「来週の予定はどんな感じ?」

 帰ってきてまで仕事を気にかけてくれるのがありがたくて、なにげなく覗き込んでみた。

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