毒舌社長は甘い秘密を隠す

「あっ、すみません。なにかご用でしたか?」

 集中していた様子で、俺の問いかけに気づかなかった彼女が不意に顔を上げた。


「いや、別に」
「……そうですか」

 沈黙が気まずい。
 今、沢村さんは怒っているのか? それとも仕事のことを考えてるだけ?
 凛としたその表情からは読めなくて、俺ばかりが焦る。


「あの、さ」
「はい」
「……この週末は予定あるのか?」

 友達と会うとか、九条さんとデート……とか。
 一緒に暮らし始めてからというもの、プライベートは別行動が多かった。
 週末に時間を空けてもらって誘い出すだけなのに、彼女が相手だと言葉や間の取り方まで不器用でカッコ悪い。


「特にありませんが」
「暇なのか」
「ひ、暇って言うわけではありませんよ? 本を読んだり服を買いに行ったり、流行りのお店で食事だってします。行きたいと思ってたところに行ったっていいし」

 彼女はムッとしながら、ちょっと早口で言い返してきた。


「要は、暇なんだろ? 付き合ってやるよ、暇つぶし」

 あぁ、素直じゃない。
 俺とデートしてくれって、なんで言えないのかと思いながらビールを飲んでごまかした。

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