毒舌社長は甘い秘密を隠す
「あっ、副社長。お疲れ様です」
「お疲れ様。どう? 秘書には慣れた?」
「それが、まだまだ足りないことばかりで……。社長がどうして私を秘書にしようと思われたのか、不思議でならないくらいです」
会議室の片付けをしている沢村さんをつかまえて、それとなく話しかける。
彼女が社長秘書になって一カ月。
相変わらず井浦社長は毒舌だけど、彼女と接した後は機嫌がいいのも変わらない。
「これもいい経験を積ませていただいていると思って、精進するのみなのですが……」
「社長の毒舌にへこまされてる?」
「っ……いえ、そういうわけでは」
慌てて否定するも、彼女は苦笑いだ。
気まずそうに視線を手元に戻し、回収する書類をテーブルの上で揃えている。
「大丈夫だよ。社長のお墨付きで秘書になったんだから、堂々とやることをやってれば評価してくれる。あの人はそういう人だ」
「……そうですね。千堂副社長、ありがとうございます」
お礼を言われるようなことを言ったつもりはない。
本当に、あの人はそういう人だから、事実を伝えただけ。
それに、きっと〝お気に入り〟の君なら簡単に異動なんてさせられることもないだろう。