毒舌社長は甘い秘密を隠す
社長と秘書には壁がある
――なんであんなことをしてしまったんだろう。
金曜の夜から続く後悔は、月曜になっても終わりがない。
思いがけない展開に慌て、社長の指に噛みついてしまうなんて。
「おはようございます。社長、先日は大変申し訳ありませんでした」
九時半過ぎに出勤してきた社長に挨拶と謝罪をしたものの、彼から返されることはなかった。
不満そうな表情で、私を一瞥しただけ。予想はしていたけれど、彼の機嫌はかなり悪そうだ。
「あの、本日のご予定ですが」
「あーあ、指が痛い」
立派なハイバックチェアに腰を下ろした彼が、ようやく私と目を合わせて口をきいてくれたと思ったのに。
「本当に申し訳ございません」
頭を下げて改めて謝る。だけど、内心納得できていない。
相当痛かったとは思うけれど、血が出るほどの怪我にはならなかった。そもそも、社長があんなことをしなければよかったはず。