毒舌社長は甘い秘密を隠す

 金曜の夜に見た彼は、いったいなんだったのかと思う。私のために食事を作ってくれたり、キッチンで抱きしめてきたり……。

 それに、ソファで腕に包まれた時は、本当にドキドキして心臓が痛かった。
 耳鳴りのように鼓動の音が鳴って、彼への想いを改めて感じたのに。


「うわぁ!」
「こんなところで突っ立ってる暇があるのか?」

 ぼんやりと週末の出来事を思い出していたら、突然社長室のドアが開いて、預けていた身体が後ろに倒れていく。


「邪魔だ」
「す、すみません!」

 支えてくれた腕の強さにドキッとしたけれど、見上げた彼の顔はとても冷たかった。
 できれば金曜に戻ってやり直したいくらい、後悔の波が押し寄せてくる。
 だけど、それでは社長の家に住む流れになっていただろう。遅かれ早かれ、なにかしらトラブルは起きていたかもしれないなぁ。

 しゅんとして、秘書室の自席に戻る。私だって好きで彼の指を噛んだわけじゃないのに。

 少なくとも、今日一日は仕事がやりにくそうだ。
 社長が毒舌なのは通常運転だけれど、不機嫌のオプション付きとなると気が重くなった。

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