シナリオ・レッスン
「座れよ、芳乃。まだ、読み合せは終わってない」
「は?何怒ってるの?透ってば変だよ」
「やっと呼び捨てにタメ口になった」
ふっと表情が緩む。しかしまだ手を緩める気は無いらしい。

「読めよ、もう一度最初から。俺も読む」
「何で……」
「いいから、読め」
そう言われて座り直す。二人で読む。

先程より声が尖る。動悸がする。手が震えてきた。
透は変わらず、落ち着いた声で、それは心なしか憂いをふくんで響きは優しい。
もう駄目だ。くらくらする。

ちょうど、生徒の下校を促す放送が流れた。
これ以上耐えられそうにない。
「もう帰る。帰ります。お疲れ様でした。先輩も早く帰った方がいいですよ」
「待てよ」
立ち上がると、透も立ち上がる。急に手首を掴まれた。思わず振り返る。

「顔が赤いぞ、耳まで」
そう言った透の手のひらも、湿っていて熱がある。

「俺は、芳乃がこの高校を受験したって聞いたとき、嬉しかった。他の高校も受かったのに、ここへ来たことも聞いた」
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