桔梗の華 ~途中公開~
「さて、此処に座りましょう」
埜鶴子様が指を翳すと一面の花が咲き
底に鶴の枝が伸びて人が座れる様な形になった。
それに座る埜鶴子様は穏やかに笑う
「おい、埜鶴子のばばあ。なんの用だ」
神威の野郎は礼儀を知らないのか?
案の定埜鶴子様は冷酷な笑を見せて
神威に指先を向けた。
「坊や、口の利き方を教えてやろうかい?」
この時俺と神威は思った
この人は怒らせてはいけない人だと。
闇雲よりやべんじゃねーの?ってくらい
ものすごい威圧感を醸し出す。
この神威までも黙らせるんだ
やべー巫女なんじゃね〜か?
「ふふ、さて何の為に桔梗殿の側にいるのかい?」
1本の花をヒラヒラと廻す埜鶴子様
「お前達はあの子の逝く末を見据えて側にいるのかい?」
「桔梗の逝く末…?」
隣をチラっと見ると歯を噛み締める神威
どーゆことだ?
俺には分からない
桔梗はどうなるんだ?
「ほう、半妖は分かるのだな。そうか其方はそうであったな。あの若き巫女の」
埜鶴子様が言いかける言葉を聞いて
思いっきり埜鶴子様を睨む神威
おいおい、ついてけねーて!
「翠子とお前、そして翠子の生まれ変わりの桔梗。アレにとっては都合がいい物語じゃないか。」
「てめ…」
埜鶴子様に飛び掛ろうとする神威を
慌てて掴んだ。
人間じゃなかったら俺でも抑えらんねーのに
「埜鶴子様、そんなに神威を挑発してどうしたいんですか?」
俺の質問に埜鶴子様は笑う
この状況で笑われても俺も
イライラするだけだ……
「長い年月生きてきた。私は此処から出られない身、それでも色んなものが見えてきた。お前の過去も見えたぞ。」
埜鶴子様は俺を見据えた。
俺の過去までも?
「半妖もお前も全てアレに狂わされた。」
アレって…もしかして
「ふふ、お前は勘が鋭い」
「金源の勾玉…」
神威は目を見開き埜鶴子様と俺を交互に見る
「そうだねえ、まずはアレをこの世に齎したのは私の姉、紅子だよ」
埜鶴子様の姉上?
いや、そもそも勾玉は何百年と存在してる
なのに埜鶴子様は今目の前に、
「ふふ、私は呪われてるのさアレを齎した血筋な上にこの山からは出ることはできぬ」
何百年もこの山に?
そんなの耐えられるのか…
きっと神威も驚いている。
その証拠に全く俺と同じ顔してやがる
「紅子は何百年と前に戦乱の夜、妖怪と人間の争いに終止符を打ったのさ、妖怪の大将奇骨という妖を封じその最大の妖力が金源の勾玉の誕生さ、」
「それと俺になんの関わりがあるんだ!」
「半妖、少しは黙ってられぬのか」
お茶目にいじける埜鶴子様に
イライラを隠せない神威。
分かる。分かるぞ、その気持ち。
「コホンっ…それから金源の勾玉を世に生まれし巫女達が清めてきた。いや清められてはいないねえ、守ってきたと言えばいいのかえ。」
埜鶴子様はさっきまでふざけてた様子と
全く変わって今度は切なげに言葉を繋げる
「金源の勾玉を守るにもそれなりの力容易る。そしてその勾玉を封じるべく、いや消滅させようと何人もの巫女が亡骸へと逝き果てた。翠子もその1人」
ピクっと神威の身体が反応する
確かにここに桔梗がまずいね〜
焦りつつ話に耳も傾ける
「半妖、翠子とお前には悲しい真実がある」
チラっと俺を見る埜鶴子様は
持っていた花を1枚1枚散らして
その花びらは俺に向かって飛んでくる
「お前はお前の答えを見つけなさい」
埜鶴子様の言葉と同時に俺は意識を失った。