お見合い結婚した夫が最近おかしい件
残されたのは、一番気づいて欲しい人間だけが気づいていない車内に漂う冷気である。

後部座席の2人に気づかれないようにため息をつくと、運転手の今野さんはから同情的な視線を送られた。


今野さん、今の俺の気持ちをわかってくれるのはあなただけだ。


ときに、ゲイだとカミングアウトするのはなかなか勇気のいることである。偏見もあるし、相手が男だと警戒されたりもする。まったく接点のない人間から何を言われようと気にはしないが、相手が直属の上司だとするとそれも難しい。


だから俺は、兵頭専務に自分がゲイだということを積極的にカミングアウトするつもりはなかった。

だが、予定変更だ。今すぐゲイだと叫びたい。

いや、そんなことをすれば、ゲイとかいう以前に能力を疑われそうなのでしないが。

とにかく、なるべく早く、自然な形でゲイだということをカミングアウトさせてください!そんなことを願いながら、兵頭専務が予約した店までの永遠とも思える時間を過ごした。


やっと2人を車から降ろした後、兵頭専務が、実はさきほど今野さんと千の些細なやりとりでも嫉妬するのだと聞いた俺は、頭痛がした。

まさかこの後しばらくの間、この夫婦に振り回されることになるだなんて、この時の俺は知る由もなかった。
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