愛されざかり~イジワル御曹司の目覚める独占欲~


この男性の目の前で倒れたから、この藤堂クリニックへ運ばれた。
そこまではよくわかった。
しかし、どうしてこの男性が医師が座る診察室の椅子に足を組んで堂々と座っているのだろう。


「あの、先生は? どこにいるんですか?」
「ここ」
「え?」


ポカンとすると、男性が椅子に掛けられていた白衣を「仕方ねーな」と呟きながら羽織る。
その胸ポケットにかけられていたネームプレートには『院長 藤堂真紀』と書いてあった。


「初めまして。藤堂クリニック、院長の藤堂真紀です」


ニコリともせずにされた自己紹介に目を見開く。


「えっ!? ここの先生って女医さんじゃないんですか?」


驚いて大きな声で言うと、うるさいというように耳を塞がれた。


「そんだけ元気なら大丈夫そうだな」
「あ、はい……」


そう言いながらもクラッとした私を見逃さなったようで、男性もとい藤堂先生は点滴の用意を始める。


「とりあえず点滴するから横になって。いいよな?」
「はい、お願いします」


少し疑いつつも閉まっていたクリニックを空けることが出来て、なおかつ不自由なく用意ができるのだから間違いなくここの医師なのだろう。
なにより、机の上に置かれた写真――どこか外国の病院なのだろうか? この男性と外人のおじさんが白衣姿で笑顔で握手をしている――――から、本人だと決定付けていた。
私が勝手に看板の名前からしててっきり女医だと思い込んでいただけのようだ。



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