愛されざかり~イジワル御曹司の目覚める独占欲~
「昨日も今日も遅いようだが、残業か?」
「はい。今忙しくて」
「会社が? それともお前の能力的にか?」
「会社がです!」
無能だから残業しているのかとでも言いたげな口調に、怒鳴りたくなる気持ちを押さえて言い返す。
この医者、失礼極まりないな!
だから、私も反撃をしてみた。
「先生こそ、昨日は大変だったようで?」
「まぁな。モテる男の性だ。ああやって不躾に見られることも珍しくない」
「不躾に見ててすみませんでしたね!」
駄目だ。この先生には口では勝てそうにない気がする。
面白そうにニヤニヤしながらかわされるんだから、余計に腹が立つというものだ。
「とりあえず、カルテ作るから。名前と住所。簡単な既往歴を教えて。あと、スリーサイズも」
「スリーサイズは関係ないですよね?」
間髪入れずに突っ込むと可笑しそうに笑われる。
からかわれた!
わかっていてわざと言ったな。
私はむぅと口を尖らせる。
「セクハラ医師って訴えますよ」
すると藤堂先生は、パソコンから目を離してくるっと振り返った。
「あのね、今何時かわかる? もうとっくに診療時間過ぎているんだよ。俺は医者だけど、勤務時間過ぎたらどんな俺でいようが別にうるさいこと言われたくねーの」
「めちゃくちゃだな……」
「何か言ったか?」
ジトっとした目ですごまれ、口を閉ざす。
でも、先生の言いたいことはわかる。今は先生にとってプライベートの時間なんだ。だから、多少の軽口も大目に見てほしいということなんだろう。