愛されざかり~イジワル御曹司の目覚める独占欲~





藤堂先生の謎の発言により、しばらくは悶々とした日々を過ごしていたが、それはいつの間にか忙しさによって解消されていった。というか、悶々と過ごす時間が無くなったと言う方が正解だろう。

今日はデザイナーさんと今年の秋冬の新作について企画が大幅に進められた。お互いに同じものを目指し、はかどった仕事が出来たときは充実した気分で帰ることが出来る。

会社から出て駅に向かって歩いていると、後ろから「里桜ちゃん?」と軽く肩を叩かれた。
振り返った先には、心さんが笑顔で立っていたのだ。


「心さん? ビックリした。どうしたんですか、こんなところで」
「偶然だね。この先の製薬会社にちょっと用事があって、その帰り。里桜ちゃんの会社もこの辺なの?」
「そうです。まさか会うなんて思わなかったから、驚きましたよ」


そう話ながら、一緒に二人で駅に歩き出す。
心さんは、営業に来た製薬会社の営業マンの忘れ物を届けに来たのだという。今日は珍しく薬局が暇だったからとのこと。


「暇で患者さんが少ないことは良いことなのに、仕事的にはちょっと複雑だよね」


カラッとした笑いを浮かべる。
心さんが暇ということは、藤堂クリニックも今日は患者さんが少なかったのかもしれない。
フッと白衣姿の藤堂先生を思い浮かべ、いやいやどうしてそこで先生を浮かべるのだと頭を軽く振る。


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